ー俳句~自然を詠うー稲畑廣太郎先生 第三回くのや和塾

日時:2009年10月26日(水) P.M.7:00開塾
場所:銀座 くのや 座敷


Text by yayo
10月第4週「くのや和塾」のお稽古は稲畑廣太郎先生にお越しいただきました。
稲畑廣太郎先生は、1897年創刊で112年の歴史ある雑誌、ホトトギス社の編集長でいらっしゃいます。
俳人高浜虚子の創刊したホトトギス社は、小学生の教科書にも出てきますので、誰でもご存じだと思いますが、112年間の伝統があり、今なお発行され続けています。稲畑先生は、その高浜虚子氏の曾孫にあたられます。

稲畑廣太郎先生

自分で俳句を詠むなんて、できるのでしょうか?と、不安げな塾生の顔も多くみられる中、今回の講座はどのように進んでいくのでしょうか・・・

まずは、稲畑先生による、俳句についてのお話がありました。

■自然を詠う
俳句とは、自然に触れた時の感動や、四季の移り変わりゆく姿への感動など、を五・七・五の17文字(音)に纏めた詩。

世界で一番短い詩が俳句だそうです。

■「季題」を詠む詩
季題を詠んで自分の言いたいことを伝える。

五七五の中に感情や自分の言いたいことを詠み込まなければなりません。
ですから、自分の言葉を省略をしなければなりませんので、自分の気持ちや情景にあてはまる「季題」に何を入れるかが重要です。

十月の季題を抜粋
秋の日、秋晴、秋高し、落鮎、落鰻、山雀、石榴、やや寒、うそ寒、肌寒、朝寒
銀杏、栗、秋の霜、冬支度 など

たった17文字の中に想いを込めてつくり、人にみてもらい、味わってもらう。
自分の気持ちを相手にわからせるためにつくる。。。
文芸といわれる所以なのでしょう。

■俳句の歴史について
俳句は、明治時代までなかったもので、それ以前は和歌しかありませんでした。
和歌にも、長歌、短歌、旋頭歌、連歌、俳諧といろいろあります。
俳諧とは、36人が(三十六歌仙)、発句から始まり、平句(花)→挙句と一句一句作り、なりたちますが、俳句とは、この、俳諧の発句から始まっています。

明治25年頃から、正岡子規が俳諧の発句を独立させようという「俳句革新運動」がおこり俳句が誕生したわけです。

ですので、松尾芭蕉は、明治以前の人ですから、厳密に言うと、彼の句は、俳句ではなく、俳諧の発句なのだそうです。

■花鳥諷詠
俳句は花鳥風月を諷詠する詩 ・・・  高浜虚子
花や動物一般や気象、季題を取り入れて詠む。

くのやのお座敷での句会です。

俳句の基礎知識をたくさん教えていただいた後に、早速句会がはじまりました。
①投句
10月の季題(歳時記から抜粋)を手にしながら、10分間で、それぞれの
想いを五七五に詠み、短冊に記入します。
私も初めての体験でしたが、10分間なんて短い時間に俳句が作れるのでしょうか・・・

10分経過し、廣太郎先生のところへ提出します。
②清記
そして、シャッフルされた短冊を、自分の手元の清記用紙へ記入します。
③選句
清記用紙を参加した11人で回しながら、各々自分の気にいった句を選句用紙に書き写していきます。

今回は三句選でしたので、選句用紙に書き写した中から、三句を選びました。

④披講
今回の読み手役「披講子」の廣太郎先生へ渡し、読み上げていきます。
自分の句が読みあげられたら、その作者は、名乗りを上げていきます。

句短冊と選句用紙など

今回の句会で詠まれた句です。(廣太郎先生のも入っています!)

秋の川都心潤すほどにあり
長月のこよい和塾むずかしい
体育の日にも寝てゐるお父さん
裏通り新酒の香りありにけり
冬支度銀座の夜に始まれり
肌寒さこらへてながめる流れ星
栗をむく手の向こうには秋の空
稲刈の後に残る稲穂拾う
幼子と競い拾った銀杏実
庭先のくちなしの花父想う
柚子の香に想いをはせる秋の草
十月の底に張り付く蛹かな
秋の雨じゃのめがさで鎌倉へ
秋風に銀座の並木揺れ杜止まず
台風の一夜を過ぎて秋高し

真剣に選句中

初めての方ばかりだったのに、皆さん素敵な句ばかりで、選句が三句以上になってしまい
ました。複数の句が選ばれ、何度も名前を名乗られる方もいらっしゃったり、初の句会は
、とても和やかで、楽しいものになりました。

そして、最後に、廣太郎先生の選句を発表していただきます。
以下は、入選句と特選三句です。

廣太郎選

入選

新蕎麦ののぼり見つけにひと歩き
冬支度日々着るものが暑くなる
木の実落つ拾い集めし幼な子ら
秋の暮ふと見あげれば銀杏黄葉
新米のおにぎり一つでおごちそう
秋高し空を眺めてただ思う
友人の幸の一時夜寒かな
無花果のジャムの香りに待ちきれず
秋の空君逝く雲のたなびかん
銀杏のこぼれし路み君想う
赤白の応援はずむ運動会

特選(三句)

日の入りの早さに秋の声を聞き

雑踏にいちょう並木の木の実かな

秋の雨別れし夜に降りしきる

前半に先生からわかりやすくご説明をしていただいたので、
全ての句に季題が使われ、そして、言いたいことを省略していたり、身近なエピソードや、写生(その情景が映像化されている)されていて、それぞれが、花鳥風月を諷詠して、作れたのではないかと思います。

日本人は世界で一番季節に敏感で、10秒の会話の中でも自然と季題を使って話しをしているので、難しく考えなくてもいいと、稲畑先生がおっしゃった通り、俳句というのは、身近に存在している季題を使って紙とえんぴつさえあれば出来てしまう、非常にシンプルで親しみやすいものなのだと感じました。1週間に1句でも作ると、1年経てばだいぶ変わってくるそうですので、これを機に、続ける方が増えると嬉しく思います。このブログをお読みの方も是非試してみてください。
あっという間に二時間が過ぎてしまいましたが、俳句の入門編の講座はとても充実したものになりました。
たった17文字の中に、季節や自分の想いなどを込めて作り、また、その解釈が、読んだ相手によって取り方が違っていたり、感じ方が違う、奥が深い文芸だと感じました。そして、心が豊かになり、最初の緊張感が嘘のように晴れ、充実した気持ちで帰路につきました。私自身も折に触れて俳句作りを続けていけたらと思います。

稲畑廣太郎先生、ありがとうございました。

曽祖父(ひいじいさん)虚子の一句 (俳句入門シリーズ (2))

稲畑 広太郎 / ふらんす堂