カジュアルからセミフォーマルまで様々な場面で着られることで人気の「江戸小紋」。そのルーツは、江戸時代に諸大名が着用した礼装である裃(かみしも)に施された定め柄。江戸時代になり戦のない平和な時代が訪れると、大名たちはお洒落を楽しむようになりましたが、一方、幕府からはぜいたく禁止令(奢侈禁止令)が出され、華美な服装は禁止されることに。そこで生み出されたのが、遠目には無地に見える細かな柄の小紋です。遠くからは色合いが楽しめ、近くでみると柄を楽しめる、江戸っ子ならではの粋なおしゃれです。そして、いかに微細な柄を掘り出して染め上げるか、職人たちの繊細で緻密な技は、限界への挑戦ともいえるほど高度で卓越したものとなりました。
和塾定例のお稽古は今回、この江戸小紋の人間国宝である小宮康正先生の工房を訪問。祖父の康助氏、父の康孝氏も人間国宝。「江戸小紋」という名称は、祖父の康助氏が人間国宝に認定されるときに、その他の小紋染めと区別するためにつけられたそうです。3世代100年にわたって受け継がれる貴重な匠の技を拝見しました。
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日時:2019年7月2日(火) PM 7:30開塾
場所:小宮染色工場
講師:染色家・「江戸小紋」人間国宝 小宮康正
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工房では、江戸小紋の作り方について詳しくレクチャーいただいたり、染めの工程において最も重要かつ最も難しい「型付け」の作業をじっくり拝見。型付けは、白生地の上に型紙を乗せ、その上からヘラで糊(防染糊)を置く作業。後の工程で全体に染料を塗ったときに、糊がついた部分は染まらず、その糊を洗い流すと糊の部分が白い模様となり江戸小紋が仕上がります。
型付けの際には、長さ約7mのモミの一枚板に、餅米で作った糊を何回か引いて乾かし、白生地を乗せる前に霧をかけて生地を張り型紙を置くそうです。型紙は濡れた状態で使います。型紙が乾くと柄の大きさが変わってしまうので、作業時は加湿器を使って室内を90%以上に保つことが必要。昼間光が強いときは、温度が上がらないようにシャッターを閉めて作業をする場合もあるとか。良い仕事をしているときは、工房の外から見ると開店休業状態に見えるかも!?とおっしゃっていました。
型付け作業で一番緊張するのは型と型の継ぎ目を合わせる型送りの時だそうです。そんな型送りを何度も繰り返しては正確に糊を生地に乗せていく…。高度な職人技が要求され、そしてようやく一反の長さに。
型紙を作る和紙・染める前の生地・糊・染料など、江戸小紋を作るためのたくさんの素材や道具の中には、現在では手に入らなくなってしまったものもあるそうです。そんなピンチを新しい発想と試行錯誤を重ねることで乗り越え、より良いものを作る。それが先代から受け継いだ伝統の継承だと思うとおっしゃっていた先生の言葉がとても印象的でした。小宮康正先生どうもありがとうございました。