「香を聞く」講師:三條西堯水 先生

日時:2013年1月12日(土)14:00開塾
会場:数寄屋金田中
講師:三條西 堯水

香 満ちました——意識を香りだけに集中させ、情景や記憶をよびさます。

もともと嗅覚は、記憶と一番深く結びついている感覚。五感のなかで嗅覚だけが、感情と記憶に関係する大脳辺縁系に直結しているためです。科学的にも、嗅覚よって思い出される記憶は他の感覚刺激によって思い出される記憶よりもより鮮明でより情緒的であると考えられています。宗教儀式用に生まれてから、感覚を文化的に楽しむところまで昇華させた香道。

室町の第八代将軍・足利義政が、三條西実隆(さんじょうにしさねたか)と志野宗信(しのそうしん)にその定式化・組織化を命じたことが香道確立の契機となります。現在、三條西実隆の流れをくむ流派「御家流」、志野宗信の流れをくむ流派「志野流」は、共に香道の主要流派です。発展していった環境の違いから徐々にそれぞれのキャラクターが形成され、御家流は公家風を、志野流は武家風を担うようになっていったようです。

新春一番、稽古初めは、和塾に組、香道御家流宗家23代当主 三條西堯水 (さんじょうにし ぎょうすい)先生による「香道」、講義と実技体験をいたしました。香道には700種以上の遊び方=組香があるのですが、今回楽しんだのは、新春にちなんだ組香「宝船香(たからぶねこう)」。

回文となっている室町時代からの一句、「長き夜の 遠の睡りの 皆目醒め 波乗り船の 音の良きかな」

[昔からこの和歌には、宝船の絵とよく一緒に描かれ、枕の下に敷いて眠ると縁起の良い夢が見られるといわれ親しまれてきたそう。]を使って香りを当てる遊びを体験しました。

香元がそれぞれの節に香りをイメージ。宝船から連想される香名(こうみょう:ニックネーム)をつけた香木を5種類用意。[香木には、伽羅(きゃら)羅国(らこく)真南蛮(まなばん)真那賀(まなか)佐曽羅(さそら)寸聞多羅(すもたら)があり、これを「六国(りっこく)」とよぶそうです]

「ながきよの」には香名「夢縁起」木所:ウ (真那賀)、

「とおのねむりの」には香名「初夢」木所:三  (真南蛮)、

「みなめさめ」には香名「あかつき」木所:花二 (寸聞多羅)、

「なみのりふねの」には香名「青海波」木所:花一 (佐曽羅)、

「おとのよきかな」には香名「七福神」木所:一 (伽羅)

これらの香木は、ひとつずつ順番に香炉に載せられ、その聞香炉が香元から正客に出されると、香炉は順に次客へと送られ、席順に聞いていきます。出された香炉は右手で取り、聞筋を自分に向け、左の掌に水平に載せます。右手の親指と小指を香炉の縁に載せ、香炉を覆い被すようにして手の内に香をため、親指と人差し指で煙突をつくるようなイメージで、そこからのぼる香りが鼻孔から頭にぬけるように聞きます。

まず、試香(しこう)。選択肢となる香の内4種を聞き、それぞれを記憶。意識を香りに集中させ、情景や記憶を呼び覚まします。次に本香(ほんこう)。香元によりランダムに選考された2種を聞き、どの香であったかを当てます。厄介なのは5種類のうち最後の1種類「おとのよきかな」は香りを聞かないこと。香元は5種の内から選ぶのではじめて聞く、香りが回ってくることがあるのです。[今回はまさにそのケースとなり、和塾生のみなさま、苦戦しましたね。]

着席直後に手元に配られた和紙に「なみのりふねの」「おとのよきかな」など、自分で選んだ香りを歌として解答。

記憶力と直感的なイメージ転換力、感性が問われる、なるほど感性がいかに研ぎすまされているかを競う雅なゲームでした。香水とは似て非なるもの、記憶の呼び覚まし方は女性よりぐんと男性的な部分もあるように思いました。また、嬉しいのは、採点の結果に全問解答の場合は「宝船」、外してしまっても「はつゆめ」とどちらも縁起の悪くない得点を得られること。一巡目より二巡目、試香より本香と、一回の会のなかでも、香を聞く回数がますごとに視界が開け、聴覚まで敏感に——自分の感覚がぐっと研ぎすまされていく感覚を体験することができました。

「香 満ちました」

香りが部屋中に満たされるとともに、塾生ひとりひとりの体の中に健やかな気となって満ちていきました。今年のお稽古も五感をフルに開いて、楽しんでいただけるのではないかと思います。

みなさま いかがでしたか。