『杉本博司世界 探訪』美しの空間と食、そして杉本文楽

杉本博司世界探訪〜茶洒金田中の昼餉と杉本文楽鑑賞の集い

杉本博司氏の「美」の表現は、写真や光から派生して近年では建築空間にも表現の域を拡大させ、流動的ともいえる世界のアートシーンの中にあっても、そのアーティストとしての地位を確立している。

3月の和塾特別企画は22日の開催。世界的なアーティストであり、和塾が標榜する「本物の日本文化」を体現する芸術家の世界をたっぷりと堪能する一日でした。

会はまず、青山の「茶洒金田中」でスタート。
杉本氏の美の根源には、時間、場所、歴史や文化を通じて物事の本質を追求し、その探究心から創造を導き出す独特の視点がある。それらの視点から表現されたのが「茶洒 金田中」の空間です。「茶洒 金田中」は、表参道という東京の中でも最も現代的な場所にありながら、日本の石や木を用いて、本来和様の文化が持っている無駄を排した美しさを表現し、更にはもっと大きな視点を持った地球規模の思想を持って構成されています。参加者が揃ったところで、杉本博司氏本人が登場。茶洒金田中のお話し、杉本文楽の話しを、創造者自ら語る貴重な機会でした。話しは、さらに広がり、間もなく小田原に竣工する杉本氏の美術館の詳細説明に。まだ公には発表されていない、そのとてつもない美術館の全貌を、パネルを示しながら解説。海に突き出たガラス張りの能舞台など、土肝を抜くお話しの連続に、参加者の溜息が重なりました。
お話しを聞きながら、茶洒金田中の昼餉。それも今回は特別です。滅多に顔を出さない金田中のご主人自らが厨房に立ち、この日だけの特別メニューをご準備いただきました。まさに贅沢な極上の昼食。

茶洒での食事と杉本博司氏のお話を終えた参加者は、青山から貸切の専用バスに乗って一路「杉本文楽」の会場である世田谷パブリックシアターへ。道中の車中では、一昨年の杉本文楽を取り上げたドキュメンタリーを上映。
そしていよいよ、今回の催しの中心をなす「杉本文楽・曾根崎心中」の公演です。近松門左衛門の原作を見つめ直し、現行上演されている「曾根崎心中」ではなく、本来の浄瑠璃本に書かれている、お初の観音信仰への帰依と云う伏線と心中そのものの解釈を、初演された原点に戻って構成し直した、まさに本質を追求するアーティストの杉本氏ならではの曽根崎心中。
太棹三味線の人間国宝・鶴澤清治さん(和塾の人間国宝塾でもおなじみ!)や文楽人形遣い桐竹勘十郎さん(これまた和塾講師として数々の講座にお越しいただいています)をはじめとした技芸員が、杉本博司氏による新解釈の曽根崎心中に挑みました。

この「曾根崎心中」の公演は、先に欧州で行われ、今回の公演はその凱旋公演という形での上演。
日本の古典文化も世界的な視野の中で見つめ直し、現代の美のひとつとして表現する杉本博司氏の世界は計り知れないものがあるのです。

本企画もまた、和塾らしい「最高峰の和文化体験」。ご参加の皆さまには、杉本博司氏直筆サイン入りの記念の床本をお土産に、眼も耳も舌も、満足いっぱいでお帰りいただけたことと思います。