日時:2013年3月27日(水)14:00開塾
会場::六本木 国際文化会館
講師:長崎巌 先生
模様の発生と歴史 模様とは何か?
まず、長崎巌先生の定義によると「模様」というのは自然物(例えば砂の風文など)ではなく、人によって目的を持って造られたものです。しかし、元はというとなぜ「模様」が生まれたか?先生が原点まで探り、説明してくださいました。模様の誕生の理由として主に3つの点を挙げています。一つ目は、神秘的効果を期待して施されるものであったとおっしゃいました。それは、人間の一番原始的な本能である身体を守たいということに由来しているのではないか、と先生は考えています。それは、人間が被服をしていると同じものだと考えられます。
最初は、たまたま泥が人間の肌に着いてしまったかもしれませんが、その泥が肌を守る効果があることに気づき、わざと身体に泥を塗るようになりました。その泥が部分的に剥がれると、色がついた形のあるものが浮かび、それが「模様」として認識されるようになりました。
二つ目に、表象・象徴・「しるし」として施されるものでもありました。色を身体に塗って、色の区別で集団の中の所属を区別する手段として役に立ちました。三つ目に、美的効果を期待し、施されるものとなりました。しかし、「模様への欲求」はまず自然界において人はまず興味を持って、初めて模様になるのです。
興味を持ち、「人の五感」を通して、模様が理解され、反応が生まれ、「感情欲求」から「模様への欲求」に変わり、「模様の要素」が発生するのです。
日本の江戸時代から「模様」と「紋様」という字が見られますが、「文様」という書き方は現代の書き方です。現在の書物には「紋様」という字があまり見られないのです。その字の使い方については、実は出版者と編集者がよくもめるようです。編集者が江戸時代からある「紋様」を使いたがりますが、画数が多く、字が難しくなるため、売れる可能性が低くいと考えられるようです。そのため出版者がだいたい反対するようです。
さて、特に江戸時代は非常に多くの模様が様々な美術品や伝統工芸などで見られますが、どういった模様があるのでしょうか?
四つのカテゴリーに分類すると次のようになります。
①具象模様、②幾何学模様、③抽象模様、④文芸意匠模様です。
つまり、目的によって模様の描き方の優先順位が決まるのです。
例えば、視覚的効果を目的とし、外見上の魅力を感じさせたい際に、例えばどういった植物が外見上で好まれることを考え、選択します。詩人の松尾芭蕉はゆりの花が下品だと考え、日本人にとって確かに模様としてあまり好まれないお花のようです。なぜなら、芭蕉によると、ゆりは女性の着物の裾が乱れている格好に似ているからです。このように、日本人が気に入ると気に入らない模様があるそうです。また、外見が好まれるだけではなく、意味も含まれている吉祥の模様の植物も沢山あります。例えば、松竹梅・橘は誰でも見たとたんおめでたい縁起の良い植物だと分かるように、模様の場合は、それらの描き方や形が大体決まっています。
さらに、季節感を表す決まったお花もあります。
例えば、桜の模様を見ると誰でも、春を連想するでしょう。しかし、特に面白いのは、その中でも、お花の様子をまた特別に鑑賞することです。例えば、川の中に桜の花びらはかたまり、どうやって流れていくというのを鑑賞し、時間の経過が感じ、模様を楽しむのです。もう一つの代表的な例として挙げられるのは、「松に夜藤」という模様です。
平安時代の清少納言は『枕草子』の中に「色あひふかく、花房ながく咲きたる藤の花の、松にかかりたる」と書いた以降に、松と藤がセットになり、さらにその藤がゆらゆらとゆれる様子が非常に美しいとされるようになりました。
その文芸意匠模様の代表としては国立歴史博物館蔵の納戸縮緬地障子模様友禅染小袖を挙げることができます。光琳雛形本から模したモチーフですが、夜藤の蔭がゆらゆらと障子に映り、松の針葉が床に散らばっている様子が正に清少納言の「松に夜藤模様」に由来しているのです。
現在の日常生活においてもあらゆるところに模様との出会いがあり、さらに日本の模様を勉強したくなりました。
[記:Fabienne Helfenberger]