和塾お稽古『江戸扇子〜扇の絵付け体験』 講師:荒井修 先生
【日時】 2013年7月1日19:00~21:00
【会場】 六本木 国際文化会館
【講師】 荒井文扇堂四代目主人
今回のお稽古は、故八代目中村勘三郎丈、五代目坂東玉三郎丈も贔屓にする、 荒井文扇堂四代目主人荒井修師匠による「扇の絵付き体験」でした。
わずか二時間で絵付けをしてしまうという、私たち素人衆だからやってしまう無謀なチャレンジでした。 体験するからこそ分かる、その難しさや奥深さ、面白さ。 しかも、なんと、絵付き体験に終わらず、自分で書いた扇面地紙を師匠に扇子に仕上げてもらうという 和塾ならではの贅沢なお稽古。他では体験できません、ありえません。 お稽古開始時間まで、師匠みずから膠を溶き、絵具を作っていただきました。
「日本人は、BLUEという了見が希薄だったと思うよ。」 と、さっそくの師匠節。
膠の原材料には、土、石、宝石、貝を使用するそうですが、江戸当時、藍色を出すのは難しかったよう。 今でも、信号機の「進む」は緑色であるように、 日本人の青色の捉え方は特別だという、日本人の色認識にまで、話が及びます。勉強になります。 (北斎が『冨嶽三十六景』を描けたのは、ドイツからベロ藍を手に入れたから、だよねと。)
他にも、師匠が身に着けている豆絞り手ぬぐいで作った衣装のことや、 劇場によって、扇子の絵付きの色を変えるという裏話まで。 職人のあいだでは、新しい劇場が出来ると、「今回の劇場は、南座ぽい?御園座的?」と、劇場照明の明度や映り方の話をされるそうです。 次回、劇場に足を運んだ際には、演舞だけではなく、扇子の色合いを見比べてみるのもおもしろいですね。
さて、絵付き体験です。 われわれ素人衆にも分かりやすく、決まりごとは4つ。
1.上下左右(約1~2cm)は、裁断するから、考えて絵付けするように。
2.円を描く際は、楕円の形で。のちほど、折り曲げた際に、円になるように。
3.直線は、避けること。折り曲げた際に、湾曲してしまうので。
4. 厚塗りはしない、厚塗りすると、割れてしまうので。
まずは、別紙に鉛筆で下書きして、次に、本番紙(越前和紙の色とのこと)を別紙に重ねて、 なぞるように、色付けしていきます。これが難しい。 思い通りに描けない、失敗した上に、色を重ねていくから、尚いっそう、趣のないものになってしまう。あー、もどかしい。。
でも、思い通りに行かないからこそ、おもしろい、それは、すごく贅沢な貴重な体験をさせていただいているという感謝の気持ち、修師匠の熱量、体験するからこそ、どっしりと分かる江戸文化の奥深さや、職人の匠の技に感動させられたからだと思います。
本当にありがとうございました。
ちなみに、師匠から教えて頂いた技で、特に、印象的だったのが、「たらしこみ」と「月の描き方・構図」でした。
「たらしこみ」 色付けして、乾かない内に他の色を垂らして、にじませるもの。俵屋宗達がはじめたもので、琳派の手法らしい。
例えば、薄墨を塗って、乾かない内に、銀色をぽんっと垂らすと、自然と薄墨線に沿いながら薄墨と銀色が融合し、 にじませる手法。 自然の道理に従っている感じで、何とも言えない味わいが出てくる。
「月の描き方・構図」 月の大きさ、月と植物の対比を象徴的にするために、月円すべて描くのではなく、月の一部しか描かない。 観る者に想像してもらう。ついつい、月をまるっと、描いてしまうのだか、 師匠に言われたとおりに描くと、趣・奥ゆかさが出て、月明りのインパクトがまったく変わってくる。
毎度のことながら、和塾ならではの、贅沢な極上体験でした。 さて、二週間後、自分が描いた絵が扇子になって戻ってきます。 世界に一つだけの自分絵扇子。
今年の夏は、いっそう豊かになりそうです。