本日の和塾は、日本刀。
先日情熱大陸にもご出演された刀鍛冶の吉原義人先生。
都内某所にある先生のご自宅兼お仕事場にお邪魔いたしました。
日時:2017年7月11日(火) P.M.7:30開塾
場所:日本刀鍛錬道場
日本刀は何からできているかご存知ですか。
↑玉鋼(たまはがね)。これを加熱し、打って整形していきます。
【玉鋼とたたら製鉄】
日本刀の原料の玉鋼は「たたら製鉄」という製法で作られます。もののけ姫の題材となった「たたら製鉄」です。江戸の終わりまでは「たたら製鉄」は全国各地で行われていました。明治になり、西洋から安い鉄が輸入されるようになり、「たたら製鉄」による和鉄の生産は途絶えます。
今現在は日本美術刀剣保存協会によって、復活され、年に1度、1月~2月半ばの寒い時期に、奥出雲で行われいます。世界に一か所だけ、現存する唯一のたたら製鉄所です。吉原先生ももちろん行かれるとのこと。たたら製鉄で作られた鉄は、高価なため基本的には刀鍛冶しか使いません。まれに包丁の原料としても使われますが、高価な包丁となります。
【玉鋼の原料は?】
たたら製鉄とは、粘土で築いた箱型の低い炉に、
原料の砂鉄と還元剤の木炭を入れ、鞴(ふいご)で送風する日本古来からの製鉄技術です。洋鉄は原料として鉄鉱石を使います。日本は鉄鉱石の産出が少ない代わりに、良質な砂鉄(粉鉱石)が取れました。また自然豊かな森が木炭の継続的な生産を可能にしました。「砂鉄」と「木炭」による製鉄技術が、極めて純度の高い鉄を生成します。
地球上には鉄は純粋な鉄Feとしてはほとんど存在していないのですね。鉄は地球上のほとんどの岩石中に酸化物や硫化物、またはケイ酸塩などの形で含まれています。黒色粉末の酸化鉄(Ⅱ)FeO、黒錆(磁鉄鉱)である酸化鉄(Ⅱ,Ⅲ)Fe3O4、赤錆(赤鉄鉱)である酸化鉄(Ⅲ)Fe2O3 などです。これらは木炭の燃焼によって発生する一酸化炭素COによって還元され、鉄Feになります。さらに木炭の炭素Cが結合され、「はがね」になります。ちなみに鋼の定義は炭素量が約0.02~2%以下で、弾性があり、丈夫で、のばして板にしたり、針金にしたりすることができるのが特徴です。
これらたたら製鉄の技術は大体室町時代位にできたいわれています。それまでの刀、例えばば平安時代の刀など「古いものは素晴らしい」と言われていますが、鉄の純度が低いため、実は物質的に見ると酸化物などが多くきれいではないんです。
【玉鋼を鍛錬する】
玉鋼を刀に使えるようにするまでを「鍛える」といいます。まずは玉鋼を700℃位に加熱して、槌で叩いて偏平な形(約3~3.5mm厚)にします(下鍛え)。
扁平にした玉鋼をハンマーで小割にし、硬いものと軟らかいものに分けます。
硬度の差は鋼に含まれる炭素量で決まります。
先生はかけらの断面を見て鉄に含まれる炭素量を見分けるそうです。長い経験の賜物です。
炭素量0.5%以下の軟らかいは「心鉄用」として→断面の目が細かい
炭素量1%以上くらいの硬いものは「皮鉄用」に→断面の目が粗い、気泡のようなものが入っている
「ホントはね、心金なんて入ってない方がいいんですよ。昔の刀は心金なんて入ってないんです。
平安時代、鎌倉時代くらいまでは心金入っていないんです。それでも折れないんですよ(笑)
たぶん戦国時代くらい、刀を大量生産する時代があったんだね。そのとき、材料が間に合わなくなったんでしょ。それで心金なんていうものを入れるようになった。増量剤として。たぶんね。皮がねを2つに分けて心金いれれいば皮がね一個で2本できる。」
それらを同質の鉄であらかじめ作成しておいた台の上に積み重ねます。
【折り返し鍛錬する】
これを1300℃くらいまで炭で熱し、たたいてくっつけていきます。純粋な鉄の融点は1538℃。鋼には炭素や他の不純物も若干含まれていますので、それ以下となります。炭素1%位の鋼だと大体融点が1300℃くらい。鉄をとかさないように温度を上げて、不純物だけを溶かしだす。「そういう状態になるとお湯の沸くような音がするんです。ぐづぐづって。で、叩くうちにもどんどん不純物がでていく。火花なんかによって。やたらに温度高くすると酸素と化合して燃えちゃうんですよ。燃えない温度で。
燃さないように温度を高くするのが鍛冶屋のうでなんですよ。」経験と勘でそれを見分けるのです。すごいですね。
叩いてのばして、2つに折って、また溶けない温度ぎりぎりで赤らめて、これを10回位くりかえします。2日間かけて。暑いし、温度を見極める集中力、叩く体力もいる、いずれも大変な作業です。
↓2つ折りにした鋼の模型
この鍛錬により、以下の鍛錬効果が得られます。→沸かしぎたえともいうそうですよ。
・たとえば10回で1024枚の層ができ、しかも叩くことによって気泡や空洞などを消し均質で微細な組織となり,靭性と耐久性の向上が計られる
・不均一だった炭素量が均一になる(刀の炭素量0.7%くらいになる)
・不純物が火花となって飛び散り、除去できるなど。
↓鍛錬に使用するハンマー、写真のものの3倍位重いものを使用するそう。見た目は小さくても、両手で持ち上げるのが精いっぱいな重さでした。これを振り上げるですね、大変なお仕事だと身を以て体験。
そうして、2種それぞれの鉄が完成。
↓皮鉄(かわがね)
↓皮鉄に心鉄(しんがね)をいれて、鍛接していく
【刀の形にのばしていく】
皮鉄と心鉄を合わせたものを、加熱して刀の形に延ばしていきます。
↓加熱する炉 奥に鞴(ふいご)が見えます。
↓刀ができるまでの模型。台になっている箱に水が入っています。焼き入れ後の冷却水です。
色を頼りに温度を見分け、叩いて延ばしていきます。焼き入れする前の鉄はα鉄といわれるものですが、ある一定の温度(750~800℃位)でγ鉄に変化します。800℃以上になると、鉄の結晶が肥大化してしまいます。その温度を、経験と勘で見分けます。
「炭素鋼はいろいろありますけど、刀は昔から0.7%くらいがいいって使われているのですよ。
750~800℃の間ぐらいで変態するんです。ガラッと性質が変わるんです。焼きが入るっていうのは、その温度で変態して固い組織になるっていうのをいうんです。それをオーステナイト変態と学術的にはいうんですけど。それを急冷、1秒間に270℃くらい下げると、固い組織になるんですよ。最初の鉱石が削れるくらい固くなるんです。同時に丈夫になる。それを焼き入れっていうんですよ。固くする。日本刀の最初の頃っていうのは固くするためにやるんですよ。」
刀の形にし、「やすり」と「せん」で磨いていてきます。
【土おき~波文を生み出す】
波文を出すために、刀の上に土を絵を描くように置いていきます。土を置いた部分は冷却速度が速くなります。土がない部分は、冷水が直接触れ、一気に水が水蒸気となります。この水蒸気が刀の周りに立ち込めるため、冷水が刀に触れられなくなり、冷却速度が遅くなります。一方土置きした部分はどうなっているかというと、乾燥した土には無数の無数の毛細血管のような管があるので、冷水が吸い込まれていきます。吸い込まれた冷水が刀身に触れると気泡となって上昇し、次々と新しく冷水が吸い込まれていきます。こうして、冷却速度が土置きした部分のほうが早くなります。
焼き入れ直前にα鉄がγ鉄に変化し、オーステナイトという組織になっていく。これを水中で急冷するとα鉄に戻り、マルテンサイトという組織ができます。このマルテンサイトという組織、非常に硬くて、物を切るのに適しています。波文の見た目の美しさはもちろんですが、機能美を表すこのマルテンサイトを生み出すために土置きをするんですね。
「刀が日本に伝来して、日本刀ができるころになると、組織の細かいところが見えるくらいにいい研ぎを、細かい研ぎをするようになったんですよ。世界中で同時期に、刀みたいな刃物ははあったけど、ちゃんと日本刀みたいに波紋があるのは一個もないんですよ。もともと日本刀は中国から来たんだと思うんですけど、中国にはない、韓国にもないんですよ。よく見ると波紋はあるんですけど、きれいに表してないんですよ。ましてヨーロッパにもない。海外は武器だったから。日本は最初から武器じゃないんですよ、刀は。刀が日本に入ってきたのは結構遅くて、奈良時代とか飛鳥時代とかいわれている。日本の支配者みたいな人が、中国の皇帝からもらったものが刀だったと思うんだよ。大変貴重な宝物だったと思うんだよ。日本の支配者の継承の印として、中国の皇帝からもらった。日本で刀が作れるようになっても、継承の印として、宝として、価値観を作らなくちゃって思って鍛冶やさんもいい刀と作ろうと思って、一生懸命作ってどんどん宝物として献上する、そういうものに値するだけの価値をつけなくちゃいけない、そんなことで素晴らしいものになっていったのではないかと思うだよ。美しさを求めていった。」
工房もご自宅も、なんと先生の手づくりだそう。驚きです。玄関の曲線美、洗面所のレイアウト、ほかにはない絶妙な造形美がありました。美しい刀を作る先生、先生の手にかかるとすべてが美しい仕上がりになるようです。最後は先生からおいしいワインを頂きながら歓談。なんとも贅沢なお稽古でした。
吉原先生ありがとうございました。