ー江戸文字~筆は寝かせて使いますー橘右之吉先生 第四回くのや和塾

日時:2009年11月25日(水) P.M.7:00開塾
場所:銀座 くのや 座敷


Text by yayo
11月のくのや和塾は、橘流寄席文字書家・橘右之吉先生にお越しいただきました。
右之吉先生、今までも何度か和塾に来ていただいてますが、女性クラスにはもちろん初登場です。

橘右之吉先生

江戸文字は日本の誇る伝統文化のひとつです。国立演舞場や、寄席の看板などの、あの文字ですね。橘右之吉先生は、橘流寄席文字家元の橘右近師匠に師事し、国立劇場や国立演芸場などのポスターはもちろんのこと、お台場にある、「大江戸温泉物語」の文字や、デニーズの新業態の「七福・弁天庵」なども手掛けていらっしゃいます。

私たち受講生は初め少々緊張気味でしたが、
お稽古は先生から資料を見せていただきながら、和やかに進んでいきました。

江戸文字には、勘亭流、根岸流、寄席文字、かご文字、髭文字、角字(かくじ)、くずし文字などがありますが、今日お稽古をする文字は、橘流寄席文字です。

江戸文字の歴史、元をたどると、御家流まで遡ります。

こちらは御家流の書

この書流は、伏見天皇の時代に御家流と名付けられ、その後広く一般に定着していきました。
ちなみに、天皇家には名字がないので、天皇の家の流という意味で「御家流」となったそうです。

御家流が全国に広まり定着したのには理由があります。当時、日本の各地方では、文字のくずし方が違っていました。そのため、例えば書簡のやり取りでも「千両貸してください」と書いたはずが、十両しか届かなかったなどという事で、もめごとがあちこちでおこるようになったそうです。そこで、書体を統一して、同じくずし方で書かなければならないという機運が高まりました。その時、統一の書体となったのが「御家流」だったというわけです。

たくさんの書流が花開いた江戸時代、人びとの識字率は、かなり高かったそうです。
上の写真で右之吉先生が持っているのは「商売往来」という教科書。その他に、番匠往来(大工の文字)など、それぞれの職業に応じた教科書があり、その1冊を学べば、自分の職に関する文字は、一通りわかるようになっていたそうです。
こちらは、小判の文字

今でも、まだ文字の読めない子供たちが、街のМのマークでマクドナルドのお店だとわかるように、江戸の頃の庶民も、パターン認識で小判の文字や戦の旗の漢字を理解していたそうです。
漢字は中国からやってきましたが、それを日本で変化させたのが、仮名です。ひらがな、カタカナのことを、仮名といい、漢字のことを真名(まな)といいますが、例えば、イロハのイは伊という漢字のにんべんからきてますし、ハは波という漢字からきてます。
書道の成り立ちは、このような文字の進化とともに進化してきたのです。
日本の文字は、やがてデザインのようにも使われ、着物の中などにも登場します。

右之吉先生、今日は特別に、たいへん貴重な作品を持ってきていただきました!

坂東三津五郎さんの公演の際につくられた300枚限定の貴重なポスター。いえ、「びら」と言ったほうがいいのでしょうか。
木版の多色刷り。和紙を使い1枚1枚、丁寧に刷ってあります。

裏は、バレンのあとが。

それぞれの職人さんの技の光る1枚です。
もちろん、文字は橘右之吉先生です。

こんな「びら」は、印刷する方が簡単なんですが、キチンとものをつくらないと、次の世代に技術や伝統を残せないからね。と右之吉先生はおっしゃっていました。

貴重な「びら」に塾生はみんな大感動。ひとしきり携帯カメラでの撮影大会になりました。

その後は、いよいよ寄席文字のお稽古です。

今回は、まずお手本に、塾生の希望の文字を1文字ずつ、右之吉先生が書いてくださることに・・・

そして、それぞれ、真剣な眼差しで、筆を運びます。

右之吉先生のお稽古では、墨は磨りません。墨汁を使います。
確かに、お稽古の前に20分も墨を磨っていたら疲れ果ててしまいますよね。書くことに集中もできない気がします。それに、書はそれほそど特別な修業じゃない。楽しみながらでも書けるでしょ。というのが右之吉先生の考え方でした。書道なのにとても和やかで楽しいひとときだったのは、先生のそんな考えがあるからでしょうか。

おおらかな橘流寄席文字は、その姿勢もまたおおらかです。例えば、筆は寝かせて使います。だってその方が筆が運びやすいでしょ、とのことです。

ふつうのお習字とは少し違いますが、みなさん伸び伸びと書けたみたいですね。

先生から、直接手習いを受けた受講生も。

あっという間に2時間が過ぎ、今回のお稽古もお開きとなりました。

小学校の頃の(厳しい)書道とは全く違う、楽しい時間になりました。
お正月も近いですし、お稽古した寄席文字で年賀状を書いてみるのも良いかもしれない。楽しみですね。

ちょっと気が早いけれど右之吉先生の賀正です。

右之吉先生、ありがとうございました。