日時:2009年8月11日(火) P.M.7:00開塾
場所:六本木 はん居
今日の発見。「こと」というのは「琴」とも書きますが「箏」とも書く。で、この「琴(きん)」と「箏(そう)」は異なる楽器。我々が一般に「琴=コト」だと思っていたのは「箏=コト」の方で、ふたつの王に今と書く「琴」は別モノの楽器だったのですよ。
いささかややこしい話しから始まりましたが、65回目の和塾のお稽古はその「箏」のお稽古。美人なお師匠さま=深海さとみ先生をお迎えし、芸大邦楽科で箏の修行中のイケメンなご子息と、尺八の石倉光山先生も加わって、塾生の数よりもお持ちいただいた箏の方が多いという、極めて贅沢な時間でした。
深海さとみ先生
で、その「琴」と「箏」の話し。先に解決しておきましょう。
一番の違いは、音程の調節手法。「箏」では「柱(じ)」と呼ばれる支柱で弦の音程を調節しますが、「琴」では弦を奏者が左手で押さえて調節する。つまり「箏」では基本的に固定された音階を持つ弦を弾いて演奏するのに対し、「琴」は左手で音階を調整しながら演奏する。「箏」がハープで「琴」はヴァイオリンやギターと似ているわけ。従って、弦の数は「箏」が多く「琴」は少ない。一般的な「箏」は13弦、他に30弦や80弦の「箏」もある。「琴」の方は一絃琴、二絃琴、七絃琴など、弦の数少なめです。西洋音楽のハープが47弦、ヴァイオリンは4弦です。つまり、音程が固定されている方は、多彩な表現のためには、原則的には弦の数を増やすしかないからそういうことになったのでしょう。
「箏」と「琴」の違い、わかりましたか?
我々が「こと」と言われて想像する下の写真のような楽器は「箏」だったのですね。だから今回は「お琴のお稽古」ではなく、「お箏のお稽古」なのですよ。
深海先生の「箏」
参考までに「琴」の写真を以下に。「琴」は全然別の楽器なのです。「箏」の字が常用漢字に含まれなかったために、こんな混乱や誤解が生じている、ということもあるようで。
これは一絃琴
さてその「箏」ですが、胴は桐の木で出来ている。糸は昔絹製だったのですが、今はほとんどテトロン製。音程調整のための「柱(じ)」は象牙整。練習用の箏ではプラスチックの柱もありますが、象牙のものとは音が異なるそうです。
右手の親指・人差し指・中指にはめるツメも象牙性。指の太さに応じてサイズはいろいろですから、自分に合ったツメをつける。ちなみに、箏には大きな二つの流派があってツメの形態が異なります。山田流はツメの先がとがっている。深海先生の生田流はツメが四角く、その角を使って弦を弾きます。
絃を支え音程を調整する柱
竜の字が頻出していますね。中国でつくられた箏のカタチが竜ににていることから、楽器全体を竜に見立てて名付けられたからです。
次に絃の名称。13本の弦にはそれぞれ奏者から遠い順に「一・二・三・四・五・六・七・八・九・十・斗・為・巾」の名称がある。最後の3本は「斗=ト」「為=イ」「巾=キン」と読む。稽古が始まると先生は「七を押さえて」だの「四のところに指を置いて」などと指示されるので、どの弦が何番なのか、しっかり頭に入れておく必要あります。
竜唇、竜舌と13本の絃
裏面はこんなことになってます。
では、いよいよ箏のお稽古を始めましょう。これまで和塾では、さまざまな日本の楽器に挑戦してきましたが、箏は比較的取っ付きやすい。音程の決まった弦が相手ですから、弾けばともかく音は出るからね。同席いただいた石倉先生の尺八と比べると相当気持ちに余裕があります。
箏に対して少し横に構え、左手は柱の外で弦の上に置き、右手3本の指を使って演奏します。美しい姿勢で構える。左肩に力が入って上がっているようでは不味い。和のお稽古は皆「美しさ」が重要ですね。素人にはこの「美しさ」がなかなか難しい。
どんな感じか、動画でご確認ください。
お稽古動画その1
お稽古動画その2
今回塾生が演奏したのは「さくら」。使ったのは右手の親指だけ。曲目もなじみがあって、弾けばともかく箏の音が響きますから、塾生の表情も柔らかくてよかったです。
お稽古の最後に、深海先生とゲストの石倉先生による「春の海」の演奏がありました。はん居の舞台で初めて聴く箏の名曲。恐慌状態の経済にあえぐ日常をしばし離れて、心がほっくり豊かになるひとときでした。
深海先生と石倉先生による『春の海』少しだけ
深海さとみ先生プロフィール
幼時より祖母・深海澄子に筝の手ほどきを受け、
のちに宮城喜代子(人間国宝)、宮城数江両師に師事す。
1973年:東京芸術大学音楽部邦楽科卒業(在学中、宮城会全国コンクール1位入賞)
1975年:東京芸術大学大学院修士課程修了 第1回リサイタル開催 以後演奏活動に入る
1983年:昭和58年度文化庁芸術祭優秀賞受賞
1985年:第6回松尾芸能賞受賞
1987年:オリジナルLPレコード『箏幻想』(日本クラウン)発表 昭和62年度文化庁芸術作品賞受賞
1993年:東京芸術大学講師を務める
1994年:40周年記念リサイタルを全国にて開催
1995年:全米九都市コンサートにて好評を博す
1996年:カンヌ、スイス音楽祭参加 宮城会全国コンクール作曲部門入賞
1997年:カナダ四都市公演開催
1999年:全古典による3枚組CD『深海さとみ箏曲地歌集』発売
2000年:「古典を現代に」と題したリサイタルを開催
現在:国内外のテレビ、ラジオにて活躍中 演奏、作曲、教授活動と同時に数々の古典の編曲を手がける
秋風幻想
深海さとみ / 日本伝統文化振興財団