地唄舞—美しくなる日本の舞— 葛タカ女先生 第二十回くのや和塾

Text by nn
まだまだ寒さの残る3月。女性クラスのお稽古、今回は地唄舞。銀座くのやの一角で、先生による叱咤激励の中、体の芯から暖まる熱気のこもったお稽古が行われました。
講師は、葛流(かつらりゅう)家元の葛タカ女先生。日本舞踊 藤間流の名取から、地唄舞 神崎流へ、そして約10年前に自ら新しい流儀 葛流を興された方です。

葛タカ女先生

先生は、楚々とした立ち振る舞いの中に、どっしりとした芯を感じさせ、さらに心地の良いカラッとした熱さも併せ持つ素敵な女性です。そんな先生を慕っている生徒の方々も非常に多いかと思います。今回は、有り難くも和塾の講師としてお稽古を。先生がもっている、強さ、美しさ、艶っぽさは何処から来ているのか。それを知ることができたお稽古でした。

男女問わず、美しい女性を目指す方。まずは地唄舞とはどのようなものなのかを知る必要があります。それを理解しなければ、舞のお稽古もただの運動になってしまいます。以下、地唄舞の説明をお読みください。

地唄舞とは何か。「江戸の歌舞伎舞踊と対照的な技法を持つ京阪の座敷舞のことで、大阪で歌い続けられた地唄で舞うことから地唄舞と言われる」とのこと。では、その舞のどこが対照的なのか。それぞれを比較しながらご説明頂きました。
先生曰く、もともと舞踊は縦の動き、舞は横の動きが主となるという違いがあります。どういうことか。舞踊は、開放的かつ派手で大きな動きをします。わかりやすく見栄えの良い動きです。一方で舞は、内面的で静的、制限された最小限の動きの中で、主に心象風景を表現します。地唄舞は畳一畳で舞うことができると言われるのもそれが所以です。

外的な表現を主とする舞踊は、役になりきる、化けることが大切になってきます。一方で内的な心象を表現する舞は、役を自分に引き付けて表現していく。同じ演目でもそのスタイルは大きく異なります。先生が、日本舞踊の世界から、地唄舞の世界へこられたのも、その違いが理由とのこと。心象を表すのは自分、それだけに形だけではなく自分自身の内面も錬磨することが大切になってくるのが地唄舞なのです。

地唄舞の種類はいくつかありますが、もっとも地唄舞らしいといわれるのが「艶物」。これは、一人の女性の悲しみを演じる女舞です。男に捨てられた女の悲しみを内に秘めた舞。男性に大人気とのこと。今も昔も、日本人男性が感じる、女性の魅力は変わらないのかもしれません。悲しみを、すぐに外に出すのではなく、一旦ぐっと溜め込む。それを指先、視線などのわずかな所作で表現する。その細やかな神経の使い方は、先生曰く、映画でいうと全部がアップで撮られているようなもの。
それが地唄舞です。

心象を内に溜め込み小さい所作で表現する。全てがアップで撮影されているぐらいの感覚で舞うこと。心の鍛錬は一旦おいておき、舞の形だけに意識を集中したとしても、とても大変です。指や腕の角度、視線や表情、体の向きや足の位置、重心や移動のスピード、扇子の持ちかたなどなど、全てにおいて気を抜けません。小さなところに全てが表現されます。その細かい動きが自然な所作になるころには、美しい体になっていることは間違いないと思います。

先生のお手本

真っ直ぐのばした状態

少し曲げた状態

ちょっとわかりにくいですね。美しいのは、下の方です。少し関節を喧嘩させた状態が美しいとのこと。関節も、耐え忍んでいるぐらいが美しいのです。

では、実際にお稽古です。

姿勢は、丹田を引き、おへそを前へ持ってきます。ぐっと腰を入れ、お尻をしめ、胸を張る。それが基本形です。

バレリーナのような立ち方

立ち姿、美しいです。
細かいところにも意識を配り、内側に、力を溜めて行きます。引力に逆らっているぐらいに首を伸ばす方がほそく、美しくみえるとのこと。引力とも喧嘩です。
かといって、力みすぎず、抜きすぎず、微妙なところで拮抗させる。
始めは力を入れ練習し、その後抜いていくという順番で行うのがいいみたいです。

歩くときは、前に進みながらもやや後ろに重心をもってくる。すぐに足を動かすのではなく、ゆっくりと内に力を拮抗させながら、ほんの少し動かす。背筋や後ろの筋肉も意識する。手をあげたら、ちょっと下げた状態にする。大変です。僅かな動きの中に、ものすごい多くの筋肉や関節の葛藤が繰り広げられています。今後、地唄舞を拝見するときには、そこに想いを馳せずにいられません。内に忍ぶ地唄舞。耐え忍ぶのは悲しみだけではありません。一つ一つの拮抗が美しい所作を形づくっています。

これを続けていくと、姿勢は良くなり、ヒップアップにもなる、表情も引き締まり、気持ちもすっきりします。引力にもまけません。たるんだ体とは縁遠くなりそうです。

体が美しくなった後は、心の鍛錬です。今回のお稽古では、心に触れることはありませんでしたが、葛藤や拮抗が美しい心も養うのでしょうか。耐え忍ぶ女性が美しいのは、内面の強さを感じるからだと思います。それは男性も然り。地唄舞は、そんな強く美しい人になるためのよい教材となると思います。

最後は、タカ女先生による「黒髪」。
独り寝の女性の悲しく、切ない思いが、髪をとく仕草に表現される、なんとも艶やかな舞でした。先生の舞を少しだけ。

葛流は昨年で10周年。5月には、国立の大劇場にて「葛流創流十周年舞の会」を華々しくご開催されました。自ら興された流儀で10年。日本伝統文化の衰退が顕著にある昨今、誠に素晴らしいことと思います。今後益々のご隆盛をお祈り申し上げております。

ちなみに、地唄舞は、耐え忍ぶ女性を扱った色っぽい情緒のある物だけではありません。軽妙でおどけた「作物」、能からきた拡張高い「能採り物」、歌舞伎舞踊を取り入れた「芝居物」などもあります。最も地唄舞らしいとされるのが「艶物」です。上記の「舞の会」では、若い男性達が「作物」を舞ったとのこと。地唄舞の世界に興味が出た方は、是非先生の元へ伺ってみてください。