狂言・山本会に行ってきました。
杉並能楽堂ですね。東次郎先生のご自宅でもあります。門柱に先生の表札かかってますから。ゴザ敷きにお座布、全席自由の客席は、一度行けば忘れられない心地よさ。こんな能楽堂、ちょっとない。他のたいていの能楽堂は、近寄るだけで気後れしそうなスノッブ臭満載の社交場って感じですが、ここんちはまるで別モノ。故郷のお祖父さん家にお邪魔したような気分でいられます。東次郎先生のお人柄のような能楽堂です。まだの塾生、是非一度出かけるべし。
杉並能楽堂
今回の番組は、狂言三つと小舞が二つ。
相変わらず素人ですが、ごく簡単にご紹介いたします。
狂言最初の演目は「入間川(いるまがわ)」。東国の大名が京からの帰国の折り大きな川に出くわす。対岸にいた男に聞くと、渡りやすい浅瀬はもっと上流だ、と。ところがこの大名、男が止めるのも聞かずそのままそこを渡り始めます。舞台を大きく使った川を挟んでの二人のやりとりが面白い。で、この大名、案の定深みにはまってずぶ濡れになります。自業自得なんですが、怒りだす。刀を手にその対岸の男を成敗すると息巻いている。言い分はこうです。ここは入間川だから、ことばも「入間様(いるまよう)」という逆さことばを使うはずだ。逆さことばなんだから、「浅瀬はここではない」というとき、その真意は「ここが浅瀬だ」ということだろう。だから私はここを渡ったのだ、と。かなり強引な議論です。
で、ここからその「入間様」という逆さことばのやりとりでおバカな会話がつづきます。ことば遊びで喜ぶのは、子供も大人も、昔からのことなんですな。逆さことばの応酬がいちいち笑えます。『ギロッポンでシーメー』なんて会話が今でも交わされることがあるようですが、人間というのは変わらないものです。
二番目は「呂蓮」。妻に断らずに勝手なことやった旦那が怒られます。妻がコワイので、亭主は責任を旅の坊主に押しつける。妻と旦那と坊主。入り乱れての大騒動。そのまま現代劇になると思います。妻は強靱で亭主はいい加減。勝手な行為は慎みましょう。
米市の東次郎先生(撮影禁止ですが撮っちゃいました。先生スミマセン。NGならスグ削除します)
最後の狂言は、東次郎先生が登場。「米市(よねいち)」という演目でした。
貧しい暮らしの男(東次郎)が、毎年恒例の合力米(こうりょくまい=施しの米)をくれるはずの檀那=有徳人を訪れます。男はいただいた米俵を背負い、妻への土産の古着の小袖を背負った俵に着せかけてもらう。その姿、まるで女を背負っているように見えます。帰り道、歳暮の礼回りに行く若者たちに出会う。若者が背負った人は誰だと尋ねるので、檀那に教わったとおり「俵藤太殿のお娘御、米市御寮人」と応えます。これが騒動の元。米市御寮人というのが、噂の高い美人だったのですな。若者たちは、その有名な美人と盃を交わしたいと願います。美人と酒の揉め事です。しまいには暴力沙汰になる。酒と女と喧嘩沙汰。年の瀬のちょっと沸き立った気分。美女大好きで血気盛んな若者。ペーソスあふれる中年男。東次郎先生の意外に?鋭い立ち回り。
狂言三番、堪能させていただきました。
終演後、東次郎先生と少しお話しをさせていただきました。先生いつもありがとうございます。次回は他の塾生を引き連れて、ぜひこの気分を味あわせてやらねばと、思った。
11月に入って急に肌寒くなりましたが、杉並能楽堂と東次郎先生のほっこり感に包まれて、にやけた顔での帰路となりました。