第三十三回「は組」お稽古「新内」富士松小照先生

席について待っていると後方から三味線の音。
♪火の用心 さっりゃりやしょう

と、太夫、三味線の流しスタイルで講師登場!!
江戸の町にいるような、粋な演出で始まった今回のお稽古。

今回講師にお迎えしたのは富士松小照師匠。
9才から富士松加賀照のもとで新内を始め、のちに鶴賀朝太夫に師事。
歌舞伎や新派の舞台、文楽との共演など、伝承邦楽、古典の継承から
新作の創造まで幅広く活躍中です。

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遠目に見てもお肌がツヤツヤ、気が満ちてます。

まずは「新内の歴史」から解説いただきました。
新内は、江戸時代中期(1750年頃)に、江戸で大流行していた”豊後節”から派生した一派。
(この頃にヨーロッパではモーツァルトが誕生!)
豊後節は、時の幕府から「風俗紊乱」を理由に禁止令が出されるほどの人気。
豊後節の創始者、宮古路豊後掾も京へ戻ることになってしまいます。

しかし、江戸に残ったお弟子さんたちは、そこから新しい流派を作り上げ、
常磐津節や富士松節が出来あがります。
富士松節から鶴賀新内が世に出ると、独特の語り口や鼻に抜ける発声が人気を博し、
「新内節」と呼ばれるようになりました。

新内は他の流派(歌舞伎などの伴奏曲)とは異なり、遊里を中心に定着。
人形や踊り手なしの素浄瑠璃として大成します。
新内節の題材には、駆け落ち、心中など男女間の人情劇が多いそう。

ひと通り新内の歴史に触れたところで、おまちかね、小照師匠の語り。
上調子は新内勝志壽さんです。
今回は、名曲「蘭蝶」のクドキを披露していただきました。
「蘭蝶」は芸人、市川屋蘭蝶が新吉原の遊女此糸(このいと)となじみ、
女房お宮との板ばさみになって、此糸と心中・・・と、全曲演奏すると1時間半もかかる大曲です。

蘭蝶の軽さ、此糸のやわらかさ、お宮のしっとり感。
小照師匠の巧みな語りと台詞回しは、まるで目の前で舞台を見ているよう。
参加者も引き込まれていきます。
聞き終えた後には心地よい緊張感。

続いては新内流しと三味線について
遊里を中心に流す”新内流し”は小説やドラマなどでも有名ですよね。
太夫と三味線の2人1組。流しの三味線は太夫が地を、三味線が上調子を担当します。
歩くテンポでゆっくりと演奏される伴奏は、音が多いわけではないのにメロディがとても情感豊か。
最近は流しをする場所がないのが残念です。

上調子は全体的に細みでバチが指に収まるくらいの小ささ。ギターのピックのようです。
これで繊細な音を紡ぎ出しているんですね。

また、新内には心中ものだけでなく、賑やかな曲もあるそうで。
弥次喜多の前引きの演奏が始まると場も和んだ雰囲気に!

そして最後にもう1曲
泉鏡花「婦系図(湯島境内の場)」新派の代表的狂言を披露いただきました。

新内はとても艶やかで女性的な印象を受けました。絹を纏うような感覚があります。
たまには目を休ませて、耳を養うことが大切ですね。

小さなお座敷の空間で2時間、大変贅沢な時間でした。

小照師匠、勝志壽さん、ありがとうございました。