日時:2017年5月23日(火) P.M.7:00開塾
場所:道往寺
本日のテーマは「大向う」。
歌舞伎を見ている時に客席から時々聞こえますよね「はりまやっ!!」「なかむらやっ!!」
なんとも絶妙なタイミングで。
この発声される方が大向うの人。
本日は歌舞伎 弥生会 幹事 堀越一寿先生をお招きしてのお稽古です。
●「大向う」という名前の由来
舞台から一番離れた席、一番後ろの“向こう側”からきているそうです。
向こう側から声がかかる、だから声掛けの方は「大向うの人」って言ったりします。
「大」は立派なという意味で、役者側からみてお客様への敬意からきている語なので、「私、大向うやります!」なんて言うのは、すこし変なのですね。
「向こう」学校で習う送り仮名は「こう」ですが、こちらは「向う」と書くのだそう。
●協会
東京の大向うは現在3つの協会があります。
寿会、弥生会、声友会。会員はそれぞれ、3人、10人、3人。
大向うになるには、なんとスカウト制度。堀越先生自体も20代の頃、協会の方からスカウトされて大向うになられたそうです。ちなみに20代で大向うになることは異例のことだそうで、当時は新聞にも載ったそうですよ。
先生の所属は弥生会。
弥生会は約70年の歴史を持ち、初期の頃は40〜50名程いたそうです。
今の会長さんは82才、4代目。平均年齢70代の世界です。先生がいかに異例かよくわかりますね。これからを担う大向うですね。
●大向うの役割
歌舞伎の歴史は400年、なのに何で大向うは70年の歴史?
戦前までは、歌舞伎鑑賞と言うのは、お客さんも勝手にヤーヤー声をかけていたそうです。自由だった。
大向うの役割は、「物語の役になりきっている役者」と「素の役者」の掛け渡なのだそうです。
昔は演じる中で、物語が20で、素の役者が80ぐらいだった。
しかし、今は物語が60で役者が40位の比率。役に入りきって演じている役者さんが多いそうで、そうするとなり切っている時に屋号を呼ばれたりすると、素の役者に一瞬戻ってしまったりするそうで、役者としても調子がくるってしまうそう。
だから役者さんによっては一切声掛けをお断りされる方もいらっしゃるそうです。
●言葉
今は声掛けのタイミング、そして、言葉選びがとても難しいそうです。
主に「なかむらや」とか屋号を呼びますが、「〜代目」「紀尾井町」「ご当人」「まってました」なんていうのもありますよね。
「まってました」とか声掛けやすそうですが、とても場面を選ぶ。名セリフが来たので「まってました」とか言いたいけど、悲しい場面だったりすると、お客様中には違うって思われるようです。例えば菅原伝授手習鑑の「いろはおくり」の場面。昔は「まってました」とよくいわれたそうですが、今では松王丸の気持ちになったらそんなこと言えないって言われてしまったりして。
だから屋号が一番多いそう。屋号の声掛けで一人前になるのも何年もかかるそうです。
間を呼んだり、役者の気持ちになったり、実はとても難しくて奥深い世界です。
●大向うの存在
堀越先生は大向うはお寿司で言うとわさびみたいな存在とおっしゃいます。
目立ちすぎてもダメ、けどないと寂しい。
ちょっと刺激的な、ネタとシャリのつなぎ役。
素敵ですね。
堀越先生ありがとうございました。