落語だって贅沢に楽しみたい。だから和塾は「お座敷落語」。
料理屋の座敷に噺家を呼んで一席所望する。ホールや演芸場では体感できない落語本来の繊細な迫力を、まさに目と鼻の先、マイクもスピーカーもなしでご堪能いただくこの大人気企画、今回、おかげさまで第10回目を迎えました。
2015年(平成27年)の第1回から、人気・実力を兼ね備え、まさに現代の落語界を席巻する師匠方にお越しいただき、笑いあり涙ありの一席を披露していただきました。
和塾「お座敷落語の会」十回の歩み
◎第一回 平成二十七年八月 於 赤坂金龍
柳家権太楼『唐茄子屋政談』
◎第二回 平成二十八年八月 於 赤坂金龍
春風亭一之輔 『青菜』
◎第三回 平成二十九年二月 於 赤坂金龍
柳家花緑 『竹の水仙』
◎第四回 平成二十九年八月 於 山の茶屋
柳家喬太郎『お菊の皿』
◎第五回 平成三十年二月 於 向島美家古
林家正蔵『しじみ売り』
◎第六回 平成三十年八月 於 神楽坂幸本
桃月庵白酒『井戸の茶碗』
◎第七回 平成三十一年三月 於 神楽坂幸本
柳家権太楼『らくだ』
◎第八回 令和元年九月 於 精進料理 醍醐
柳家さん喬『柳田格之進』
◎第九回 令和二年三月 於 向島櫻茶ヤ
柳家喬太郎『おせつ徳三郎』
そして、記念すべき第十回目にお招きしたのは、林家こぶ平の時代からテレビでもお馴染み、高座に姿をあらわすだけで場内を明るくする九代目林家正蔵師匠。
ご存じ初代林家三平と海老名香葉子の長男、実姉は海老名美どりと泰葉、実弟は落語家二代目の林家三平、祖父は七代目林家正蔵、という芸能一族のDNAを継ぐ粋人です。1988年志ん朝以来の最年少で真打に昇進し、2005年に九代目正蔵を襲名しています。
まずは、落語評論家・山本益博さんより、ご挨拶と正蔵師匠のご紹介をいただき、お二人の対談でスタートです。
そして、正蔵師匠の落語「子別れ」。
「子別れ」は古典落語の演目の1つ。柳派の初代春風亭柳枝の創作落語で、三代目麗々亭柳橋や四代目柳家小さんの手を経て磨かれた人情噺の大ネタです。
会場は、今回も落語にちなんだ場所をご用意しました。200年以上の歴史を誇る、「うなぎ割烹 大江戸」。時代とともに変わる人々の嗜好や、タレの材料となる醤油やみりんの味の変化に合わせ、タレも微妙に調整しているそう。
落語の後には、江戸伝統のうなぎをしっかりと感じられる逸品をご堪能いただきました。
第10回記念の会に際して、山本益博さんよりいただいたお言葉。
「お座敷落語」の最大の魅力は、贅沢な空間で最高の落語と料理を合わせて楽しむことです。落語と言えば、今どきは、寄席や演芸場・ホールで楽しむのがほとんどですが、一昔前までは政財界の要人などが贔屓の噺家を座敷に呼んで楽しむ「御座興」というお遊びがありました。
御座興で噺家は、寄席や演芸場ではなかなか聴けないような人情噺や、時にはバレ噺・色気噺などを披露したものです。和塾のお座敷落語は、そんな贅沢で風流な旦那遊びを再現したもの。最高の落語に贅沢な空間と料理が必須の要素なのです。
「お座敷落語」では落語家の選考も一般の落語会とは少し異なります。
名の通った噺家なら誰でも良いというわけではない。私が大事にしている選択基準は 人としての清潔感と高座の品格。選ばれたお客さまが贅沢な空間で美味しい料理とともに楽しむのですから、この二点、清潔感と品格はとても大切です。厳しい基準を設けると選考作業はタイヘンで苦労も多いのですが お客さまの満足感は確実に向上する。だから和塾のお座敷落語に来られるお客さまは幸せだと思います。
もうひとつ、お座敷落語には演目によって独特の楽しみがありますね。少人数での開催なので、しんみりとした切ない人情噺は、多人数で聴くよりずっと心に沁みる。第一回の権太楼師匠による「唐茄子屋政談」や、さん喬師匠の「柳田格之進」喬太郎師匠の「おせつ徳三郎」がそれです。
一方で 第二回の「青菜」や第四回の「お菊の皿」など、お座敷を笑いで包むような演目もある。落ち着いた大人のしかも少人数の客から笑いを取るのはとても難しいもので、噺家の技量が問われる演目。一流の落語家の笑いを引き出す手練手管も楽しみどころのひとつです。
ともあれ 和塾のお座敷落語も今回が記念すべき第十回。おめでたいことです。これから先も 二十回 三十回とつづけてゆきたい貴重な落語会です。落語界で唯一の人間国宝・柳家小三治師匠によれば「落語は何かのきっかけで気付いた人に門戸を開く芸術」とのこと。そしてそれは「気付いた人だけに与えられる桃源郷」なのです。お座敷に現れる桃源郷を これからもずっと みなさまとご一緒に楽しみたいものです。
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益博さん、どうもありがとうございます。
みなさま今後とも和塾の「お座敷落語」、どうぞよろしくお願いいたします。