uraku和塾 第Ⅱ期 第三回「紫式部」 ゲスト講師:三田村雅子 先生

日時:2013年1月15日(火)18:00開塾
会場:uraku青山
案内役:葛西聖司
講師:三田村雅子

見し人の煙となりし夕よりなぞむつましき塩釜の浦
見し人の煙を雲とながむれば夕の空もむつましきかな

「和文化の巨人たち」をテーマに、人物でめぐり日本の歴史文化を堪能する「uraku和塾」。Ⅱ期三回目は、『源氏物語』の著者、紫式部です。前半は、三田村先生による明朗かつ女性的な視点をもって、歴史的背景と家族構成、当時の価値観を説明いただきながらどのように女性作家の素養が育まれていったか、作品の読みどころと共に紹介。テーマに合わせた食事を挟み、後半は葛西さんが紫式部の感性と美意識について三田村先生と対談。ひとつひとつ咀嚼され、紫式部というひとりの類希な才能を持つ女性の輪郭を浮き彫りにしながら、より身近なひとりの人物として感じることができた講座でした。

当時の情報伝達システム、書物の印刷方法を考えたときに遥か1000年以上前の作品が現在まで、いくつもの戦火をかいくぐり残され続け「名著」となった不思議。『平家物語』はじめ、後の日本の文学作品に多大なる影響を及ぼしたこと。はじめは紫式部の女友達たちが筆をとり書き写し書き写し、そのまた友達へ、幾重の人手を渡ったことを辿っていったとき、改めてその凄さに驚きます。紫式部の没した10年後には京から常陸の国(茨城県)にまで届いてしまうほどの人気。幾千の時を越えても人間の苦悩や哀しみには逸れない軸があることに日本人はずいぶん昔から感じ取っていたことに、そして見事に文字にしてしたためることに成功した紫式部の偉業をより深く認識することができました。

『源氏物語』は前半生の段では光源氏が栄華を極めていく色彩豊かな世界、後半は栄華や権力とは違う世界を切り開いていった無彩色の世界。
それは読書にふけり、国から重宝されるまでの才女となり、ハングリー精神に執筆を進め宮中につとめるまでの視点、宮仕えをして現実を目の当たりにしてから、当時の権力者たちが求めるものとは別の世界を模作し葛藤した視点。紫式部の人生そのものと重なるようだと、三田村先生は案内されました。どこか物哀しげ、この世への無情、鬱気を抱いた感性が紫式部と先生ご自身のそれと交差しているような印象。現代の私たちにはなかなか疎遠な古典文章も、三田村先生による朗読音として紡ぎだされた『源氏物語』から、文字として読んでいた以上に実感をもってその感性を考えることができました。

紫式部――平安をもとめた波乱の時代とともに、自らの孤独と無情とともに栄華をみつめ、そこから新しい世界を切り開くまで、筆をとった女性像がありました。

みなさま、いかがでしたか。

次回、第二期の第四回は「空海」。
奈良から平安へと転移する時代に、密教という一大文化体系を持ち込んだ弘法大師 空海。現在でも「お大師さん」として、広く信仰され続けています。庶民の私立学校の設立など、日本初の画期的な事業も多く成し、また「弘法も筆の誤り」といわれるように書家、そして文人としても、その才能をいかんなく発揮しました。評論家であり、宗教学者の山折哲雄氏に学ぶ、空海、どうぞお楽しみに。